先日私の質問箱に下記のような匿名の質問をいただきました。
本ページはこの回答のつもりで書きました。
先日の言語処理学会年次大会緊急パネルにおいて、 京都大学黒橋先生(国立情報学研究所次期所長)が 「ChatGPTで自然言語処理は終わるのか?」という質問に対して Yes と回答したのを私がツイートしたところ、 ものすごく拡散して反響の大きさを感じました。このツイートを見て、大いなる勘違いをされた方も 多いのではないかと思います(勘違いするようなツイートをする私も悪いのですが)。
ただ、実際にこれを聞いていた方々はお分かりだと思いますが、 黒橋先生はディベートの役回りの如くあえて Yes の立場から回答しただけで、 実際に聞いた方の中で本当に自然言語処理が終わると感じた方はほとんどいないのではと私は思っています。
確かに、自然言語処理の様々な課題の中で、ChatGPT をはじめとする大規模言語モデルの登場によって、 ある程度の性能であれば出来てしまった課題や、近い将来にかなり出来そうと予想される課題もあります。 この側面のみを捉えて黒橋先生は Yes と言ったのであって、自然言語処理のすべての課題が 大規模言語モデルでできると言ったのではないと私は理解しています。
確かに、ChatGPTなど各種大規模言語モデルの登場によって一部の研究はやる必要がなくなり、 別の一部の研究は経済的・時間的理由で個人レベルでは事実上できなくなりました。 これに近い研究をされてきた方にとってはがっかりだと思います(私も何度か経験があります)。
しかし同時に、ChatGPTの登場に伴って新たに行うべき研究も登場したように思います。 今までやりたくてもChatGPTみたいなツールがなくてできなかった(より高度な)課題や、 ChatGPTが顕在化させた課題がいくつもあるように思います。もしかしたら、 これが黒橋先生の仰る新しいNLPなのかもしれません。
私も、これはむしろチャンスではないかと感じています。
ChatGPTの登場で自然言語処理が使われる場面は明らかに増加していますので、 自然言語処理の技術者がやらないといけない役割は増加の一途だと思います。 研究者と同様にすべきことが変わってくる可能性がありますが、 自然言語処理を現場で実装する際に ChatGPT APIを叩けばそれで終わりということにはならず、 何らかの手当てが必要なはずです。世の中そんなに甘くありません。
自然言語処理においてやらないといけない課題はまだ山のようにあります。 社会の期待に応えられるよう、皆でがんばりましょう!
(2023.3.22)